外国人材の採用において、最も多く活用される在留資格「技術・人文知識・国際業務」。この在留資格は、本邦の公私の機関との契約に基づいて行う、自然科学・人文科学の分野における専門的技術・知識を要する業務、または外国人特有の感性を必要とする業務に従事する外国人を受け入れるために設けられたものです。
しかし、その適用範囲には明確な基準が存在します。採用活動を始める前に、企業側が必ず理解しておくべき「許可の3大要件」を、出入国在留管理庁が公表しているガイドラインに基づき、専門家として詳細に解説します。
要件①:申請人本人の適格性(学歴・職歴要件)
まず、採用する外国人本人が、担当する業務に必要な専門知識やスキルを持っていることを、客観的な経歴で証明する必要があります。 これは法務省令で定められており、主に以下のいずれかを満たす必要があります。
1. 学歴要件
- 従事しようとする業務に関連する科目を専攻して大学を卒業したこと(または、これと同等以上の教育を受けたこと)。
- あるいは、日本の専修学校の専門課程を修了し、「専門士」または「高度専門士」の称号を授与されていること。
2. 実務経験要件
10年以上の実務経験を有すること。 この経験には、大学や高校、専門学校等で関連科目を専攻した期間も含まれます。
「業務との関連性」の判断は、学歴によって柔軟性が異なります。大学は広く知識を授ける機関であるため、専攻科目と業務の関連性は比較的緩やかに判断されます。
一方で、専修学校は職業に必要な能力を育成する目的が明確なため、専攻科目と業務内容には相当程度の関連性が必要とされるのが原則です。
【重要な例外】キャリア形成促進プログラム認定校の場合
- ただし、文部科学大臣による「キャリア形成促進プログラム」の認定を受けた専修学校の専門課程を修了した方については、質の高い教育を受け、修得した知識を応用できると考えられることから、専攻科目と業務の関連性について、大学卒業者と同様に柔軟に判断されることになっています。
要件②:業務内容の専門性(在留資格該当性)
次に、その外国人に担当させる業務内容そのものが、技人国ビザの活動範囲に明確に含まれている必要があります。
「専門的業務」の定義
その活動は「学術上の素養を背景とする一定水準以上の専門的能力を必要とする」ものでなければなりません。 求人時に「未経験可、すぐに慣れます」と記載されるような業務は、原則として対象外です。
「単純労働」と見なされないために
在留期間中の活動を全体として捉えた際に、活動の大部分が専門知識を要しない業務(例:飲食店の接客、工場のライン作業など)である場合は、技人国ビザには該当しません。 これらの業務は「特定技能」など、他の在留資格で担うべきと明確に区分されています。
「国際業務」(通訳・翻訳、語学指導など)の要件
- 「外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務」(例:翻訳、通訳、語学の指導、海外取引業務、デザインなど)に従事する場合、原則として3年以上の関連業務での実務経験が必要です。
- ただし、大学を卒業した方が、翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、この実務経験は不要です。
要件③:受入れ機関の適格性(事業の安定性・待遇の妥当性)
最後に、採用する企業側の体制です。これには「経営状態」と「外国人への待遇」の2つの側面があり、両方を満たす必要があります。
【事業の安定性・継続性】
採用した外国人に、安定的・継続的に給与を支払い続けられる経営基盤があるかを、決算書等の資料を基に審査されます。赤字決算や新設法人であっても、即座に不許可となるわけではありません。今後の事業計画書等で事業の安定性・継続性を合理的に説明できれば、許可の可能性は十分にあります。
【報酬の妥当性(日本人と同等額以上)】
- 法務省令で「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」が明確に定められています。
- これは、外国人を不当に安い賃金で雇用することを防ぐための重要な規定です。審査では、同じ企業内の同程度の学歴・職歴を持つ日本人社員の給与水準などが参考にされます。
輸出入業を営む企業で、申請人が月額17万円の報酬で翻訳・通訳業務に従事するとして申請があったが、同時に採用された同種の業務を行う新卒の日本人の報酬が月額20万円であったため、「日本人と同等額以上」とは認められず不許可となった事例があります。
まとめ:採用のミスマッチを防ぐために
ご紹介した3つの要件(本人の適格性、業務の専門性、受入れ機関の適格性)は、採用活動の初期段階で必ず確認すべき重要なチェックポイントです。一つでも要件を満たせない場合、その後の手続きが全て無駄になってしまう可能性があります。
「この人材は、この業務内容で、技人国ビザを取得できるだろうか?」 もし少しでも不安に感じたら、採用を具体的に進める前に、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。
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