在留資格「技術・人文知識・国際業務」(以下、技人国)の申請において、不許可となる最も多い原因の一つが「従事する業務が単純労働と判断されること」です。これは、入管法が定める技人国の活動が「学術上の素養を背景とする一定水準以上の専門的能力を必要とする活動」でなければならない、と規定されているためです。
企業側は専門業務のつもりでも、入管の視点ではそう見なされないケースは少なくありません。では、その境界線はどこにあるのでしょうか。出入国在留管理庁が公表しているガイドラインと、具体的な許可・不許可事例を基に、その基準を徹底解説します。
大原則:活動全体が「専門的業務」であること
技人国ビザの該当性を判断する際、入管は「在留期間中の活動を全体として捉えて」審査します。
したがって、例えば行う業務のごく一部が専門的であったとしても、その他の大部分が専門的な技術や知識を必要としない単純作業である場合、「技人国」には該当しないと判断されます。 逆に、専門的な業務に付随して、一時的に非専門的な作業(例えば、フロント業務中の急な荷物運搬など)を行わざるを得ない場合、それをもって直ちに問題とされるものではありません。
重要なのは、在留期間中の活動を全体として見て判断される、という点です。一部だけを見て『これは単純労働だ』と判断されるわけではありません。
【重要】採用当初の「実務研修」はどこまで許されるか?
新人研修の一環として、本来は技人国に該当しない業務(例:飲食店での接客、小売店の店頭販売、工場のライン業務等)に従事する場合でも、一定の条件下では許容されています。
許容される条件
研修期間が設けられている場合、入管は「研修修了後、本当に専門的業務に移行しているか」を確認する必要があるため、在留資格決定時には、**原則として在留期間「1年」**が決定されることになります。 例えば、雇用契約が3年間しかないにもかかわらず、2年間を実務研修に充てるような計画は認められません。
飲食店チェーンで、数年間にわたり期間未確定の店舗研修(接客・調理)を経て、選抜された者のみが本社業務に従事するようなキャリアプランは、技人国として採用された者に一律に課される実務研修とは認められず、不許可となりました。
具体的な不許可事例から学ぶ「単純労働」の境界線
どのような業務が「単純労働」と見なされ、不許可になりやすいのでしょうか。公表されている不許可事例を見ていきましょう。
- 飲食店・ホテルでの事例:
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- 宿泊客の荷物の運搬及び客室の清掃業務が主たる業務。
- レストランにおける料理の配膳・片付けが主たる業務。
- 工場・製造業での事例:
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- 弁当工場での弁当の箱詰め作業。
- 菓子工場での洋菓子の製造業務(反復訓練によって習得可能と判断)。
- 技能実習生が行う業務とほとんどが同一の、部品の加工、組立、検査、梱包業務。
- IT・サービス・その他での事例:
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- コンピューター関連会社でのデータ保存、バックアップ作成、ハードウェアの部品交換といった補助的業務。
- バイク店でのフレーム修理やタイヤ交換といった修理作業。
- 小売店での接客販売業務(労働者派遣契約で「店舗スタッフ」と記載されていたケース)。
許可事例との比較
職種 | 許可されやすい業務(OK例) | 単純労働と見なされる業務(NG例) |
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ホテル・旅館 | 外国語を用いたフロント業務、外国人向け宿泊プランの企画、海外旅行会社との交渉 | 宿泊客の荷物運搬、客室の清掃、レストランでの配膳のみ |
IT・エンジニア | システム設計、プログラミング、ネットワーク構築 | 簡単なユーザーサポート、PCのキッティング、データバックアップのみ |
通訳・翻訳 | 専門分野の翻訳、会議での逐次通訳、契約書の翻訳 | 店舗での接客の合間に行う補助的な通訳、業務量が少ない翻訳 |
まとめ:業務内容の「言語化」と「客観的説明」が鍵
技人国ビザが許可されるか否かは、その業務内容をいかに具体的かつ詳細に、そして「専門性が必要である」と合理的に説明できるかにかかっています。 「この業務は、大学で学んだ〇〇の知識がなければ遂行できません」と、学歴や職歴と業務内容の関連性を明確に示すことが重要です。
自社の業務が該当するか少しでも不安な場合は、申請前に、私たちのような専門家にご相談ください。業務内容を精査し、許可の可能性を高めるための最適な申請方法をご提案します。
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