永住ビザを目指すあなたへ。海外送金と扶養控除で失敗しないための完全ガイド

日本で働きながら、海外に住むご両親やご家族に、仕送りをしている方も多いと思います。

その際、年末調整や確定申告で「国外扶養控除」を申請し、税金(住民税・所得税)の負担を軽くしているケースも多いでしょう。

しかし、その(節税のためには合理的な)行動が、あなたの将来の「永住許可」申請において、不許可の原因となる最大の「落とし穴」になる可能性があることをご存知でしょうか?

永住審査における「年収要件」や「素行要件(納税義務)」の判断は、税務署の判断とは異なります。入管(審査官)は、その扶養が「実態を伴うものか」を非常に厳しくチェックしています。

この記事では、入管業務専門の行政書士の視点から、永住申請と「海外送金・扶養控除」の複雑な関係、年収要件の正しい計算方法、そして将来不許可にならないための「正しい送金の鉄則」について、徹底的に解説します。

永住許可全体の基本的な条件を確認したい方は、こちらの総合ガイドからご覧ください。

目次

扶養控除と日本の税金の仕組み

日本の「税金」の基本ルール

まず、日本の税金(住民税や所得税)は、個人の「所得(もうけ)」に対してかかります。そして、税金を計算する際には、単純に年収全体にかかるわけではなく、「所得」から様々な「控除(こうじょ)」を差し引いた、残りの金額に対して税金がかかります。

[年収] – [様々な控除] = [税金を計算するための金額]

この「控除」が多ければ多いほど、税金を計算するための金額が小さくなり、結果として支払う税金が安くなります。

「扶養控除」とは?

その「控除」の中でも、特に大きな金額が引かれるのが「扶養控除(ふようこうじょ)」です。これは、「あなたが家族の生活を経済的に支えている(=扶養している)なら、その分、あなたの税金の負担を軽くしてあげましょう」という制度です。

そして、この制度の重要なポイントは、扶養する家族が海外(例えばベトナム)に住んでいる場合でも適用できるという点です。

実際に税金はいくら安くなるのか?

海外の家族を扶養に入れると税金がどのくらい安くなるのか、具体的な数字で見てみましょう。

【モデルケース】

Aさん: 日本で働くエンジニア

年収: 500万円

扶養家族: ベトナムに住む両親(父と母)の2名

税率(仮定): 所得税10%, 住民税10% (※実際の税率は所得や他の控除額により変動します)

STEP
扶養控除で「所得」から差し引かれる金額

Aさんがご両親2名を扶養に入れることで、「所得(税金を計算する元の金額)」から以下の金額が差し引かれます。

  • 所得税の計算: 1人あたり 38万円の控除 × 2人 = 76万円
  • 住民税の計算: 1人あたり 33万円の控除 × 2人 = 66万円
STEP
実際に安くなる税金額

この控除によってAさんの税金が年間でいくら安くなるかを計算します。

  • 所得税が安くなる額: 控除額 76万円 × 所得税率 10% = 7万6000円
  • 住民税が安くなる額: 控除額 66万円 × 住民税率 10% = 6万6000円
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【結論】年間で節約できる税金の合計

7万6000円(所得税) + 6万6000円(住民税) = 合計 14万2000円

このモデルケースでは、Aさんは年間約14万円も日本で支払う税金が安くなる、ということになります。

扶養控除が永住申請の「落とし穴」になる理由

なぜ「海外送金」が重要なのか?

昔は自己申告だけで海外の家族を扶養に入れられましたが、悪用を防ぐため、今は「本当にその家族の生活を支えているのか?」という証拠の提出が必須です。その最も強力な証拠が「海外送金記録」なのです。

なぜ、これが「永住申請」で不許可の原因になるのか?

ここが最も重要なポイントです。理由は、入国管理局の審査官が、税金の申告内容から「申請者の人間性(キャラクター)」と「安定した生活を送る能力」を見ているからです。

【入管審査官の視点】
  • 「この扶養は、本当に実態があるのか?」 年収が高くないのに、5人、6人もの家族を扶養に入れていると、「本当にこの収入で養えるのか?」と疑われます。そして、扶養が事実であることの証拠として、一人ひとりへの十分な金額の海外送金記録などを厳しくチェックします。
  • 「意図的に税金を逃れようとしていないか?」 もし十分な送金記録がなく、扶養の実態が疑われると、審査官は「この申請者は、日本の法律を守らず、不当に税金を安くしようとする誠実さに欠ける人物だ」と判断します。これは「素行が善良であること」という永住許可の基本条件に違反します。
  • 「修正申告=過去の過ちの証拠」 申請前に慌てて「過去の申告は間違いでした」と税務署に修正申告をすると、それは「過去、正しく納税していなかったことの動かぬ証拠」になります。なぜ最初から正しく申告しなかったのか、その理由を厳しく問われます。

「書類だけの扶養」が発覚した場合の罰則と影響

もし、海外送金などの実態がなく、書類上だけで家族を扶養に入れているとどうなるのでしょうか。

それは「脱税」です

実際に扶養していない親族を申告して納税を免れる行為は、日本の法律上、悪質な「所得隠し」であり、明確な「脱税」と見なされます。

厳しい罰則

税務調査などでこの事実が発覚した場合、以下のようなペナルティ(追徴課税)が課せられます。

  • 本来納めるべきだった税金の全額
  • 重加算税: 最も重い罰則。追加税額のさらに35%〜40%が罰金として課されます。
  • 延滞税: 納税期限からの利息。

そして最も重要なのは、たとえこれらの税金をすべて支払ったとしても、「過去に脱税という悪質な行為をした」という記録が残り、永住許可を得ることは極めて困難になるという事実です。

修正申告後、何年待ってから永住申請すべきか?

この問いに対して「必ず〇年」という法律上の明確なルールはありません。しかし、永住申請では直近5年分の納税記録が審査されるため、これが一つの大きな目安となります。

最も安全なのは「修正申告の対象となった年度が、提出を求められる直近5年間の証明書の範囲から完全に外れるまで待つ」ことです。

【具体的な例】

状況: 2025年10月に、2023年度分の税金について修正申告・納税した。

待つべき期間の目安: この場合、「2023年度」の記録が提出範囲から外れるまで待つのが安全です。例えば2030年に申請すれば、提出する納税証明書は「2029年〜2025年」の5年分となり、問題のあった2023年度の記録は範囲外となるため、不利な影響を最小限に抑えられます。

つまり、修正から少なくとも5〜6年程度待つのが、一つの保守的で安全な考え方となります。

【重要】見落とされがちな影響:必要年収基準の引き上げ

海外の家族を扶養に入れることは、税金面だけでなく、永住審査のもう一つの重要な基準である「年収」にも直接影響します。

永住申請には明確な年収基準は公表されていませんが、一般的に申請者本人で年収300万円が最低ラインとされます。

その上で、扶養家族がいる場合、審査のハードルは上がります。

ここで重要なのは、「日本国内の扶養家族」と「海外(本国)の扶養家族」の扱いです。

実務上の目安として、申請者の年収には「扶養家族1人あたり約70万円~80万円」が追加で必要になると考えられています。

この「1人あたり70~80万円」という審査基準は、海外(本国)のご両親などを扶養している場合でも、国内の扶養家族と同様に加算して判断される可能性が否定できません。

(例:たとえ本国のご両親への実際の送金額が年間30万円だとしても、入管の生計要件の審査においては、国内の扶養家族と同様に「1人あたり70~80万円」の扶養負担があるものとして、申請者の年収が十分かを判断されるリスクがあります。)

入管(審査官)は、以下の計算式(イメージ)であなたの生計能力を判断しています。

(審査のイメージ) 申請者の年収 ≧(本人の生活費 +(国内・海外の扶養家族の総人数 × 約70~80万円))

将来の永住を見据えた「正しい海外送金」4つの鉄則

では、将来の永住申請で不利にならないためには、どのように送金し、何を証明すればよいのでしょうか。以下の4つのルールを必ず守ってください。

鉄則1:扶養の「前提要件」を満たしているか確認する

まず、そのご家族が税法上の「扶養親族」の要件を満たしているかを確認します。要件を満たさない家族を申告することはできません。

1. 親族要件「6親等内の血族」または「3親等内の姻族」である必要があります。(ご両親や祖父母、兄弟姉妹は含まれます)

  • 必要な証明書類: 「出生証明書」や「婚姻証明書」など。(日本語翻訳付き)

2. 所得要件【最重要】: 扶養されるご家族(例:お母様)ご自身の年間の合計所得金額が48万円以下でなければなりません。(※給与収入のみの場合は103万円以下) 本国で年金収入や不動産収入などが十分にあるご家族は、この要件を満たさず、税務上の扶養に入れることはできません。

この「所得要件(48万円以下)」は、永住申請で(まれに)証明書の提出を求められるから重要なのではなく、このルールを破って申告すること自体が「虚偽申告(素行不良)」とみなされるリスクがあるため、必ず守る必要があるのです。

鉄則2:『送金記録』を一人ひとり用意する【最重要】

これが最も重要なルールです。生活費を送っている事実を証明します。

  • 必要なもの: 銀行の送金依頼書、Wiseなどのオンライン送金サービスの利用明細
  • 注意点: 扶養したい家族一人ひとりに対して、個別に送金した記録が必要です。例えば、お母様の口座にまとめて送金し、そこから他の家族に分配してもらう、という方法は認められません。父、母、弟を扶養するなら、3人それぞれの口座に送金した記録を残してください。

鉄則3:「生活費」だと分かるように定期的に送金する

「生活を支えている」とアピールするためには、送金のタイミングも重要です。

  • 理想的な方法: 毎月、または3ヶ月ごとなど、定期的・継続的に送金しましょう。
  • 避けるべき方法: 年末に一度だけ大きな金額を送金すると、生活費ではなくボーナスや贈与と見なされ、扶養の実態を疑われる可能性があります。

鉄則4:すべての証明書類を完璧に保管する

上記の「親族関係書類」と「送金関係書類」は、税務署への提出はもちろん、永住申請の際にも入国管理局から提出を求められる可能性があります。毎年、年度ごとにクリアファイルにまとめて、大切に保管しておきましょう。

まとめ:誠実な納税実績こそが永住へのいちばんの近道

扶養控除は、正しく利用すればあなたの生活を助ける有効な制度です。しかし、永住審査という観点では、あなたの「誠実さ」を測るための指標になっていることを忘れてはいけません。
将来の永住申請で後悔しないために、今日からでも「正しい送金方法」を実践し、誰に見られても恥ずかしくない、クリーンな納税実績を積み重ねていきましょう。ご自身の状況に少しでも不安があれば、ぜひ一度専門家にご相談ください。

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