家族の永住申請、「同時申請」のメリットは? 単独申請と同時申請のどちらを選ぶべき?

ご家族で永住申請を考えるとき、こんな悩みを抱えていませんか?

「夫(就労10年)は永住要件を満たした。しかし、妻(私)や子供たち(家族滞在)はまだ在留5年で、10年要件を満たしていない。」
「やはり、夫がまず永住許可を取ってから(約1年〜1年半待ち)、その後に妻や子供が『永住者の配偶者等』として申請する(さらに1年〜1年半待ち)しか、方法はないのだろうか…」

いいえ、その必要はありません。

もし、夫(本体者)が永住要件を単独で満たしているのであれば、「家族全員で同時に申請する」ことで、在留10年未満の妻や子供も永住許可を得られる可能性があります。

この戦略(同時申請)は、ご家族全員が永住権を得るまでの時間を劇的に短縮できる「切り札」ですが、それには専門的な「仕組み」の理解と、重大な「落とし穴」への注意が必要です。

この記事では、入管業務を専門とする行政書士が、なぜそれが可能なのか(要件緩和の仕組み)と、その戦略のリスクについて詳しく解説します。

目次

「同時申請」で要件が緩和される理由

永住申請の大きな壁の一つに、「原則として10年以上、継続して日本に在留していること」というルール(在留10年要件)があります。

読者の中には、このように考えている方(特に「家族滞在」の配偶者やお子さん)も多いのではないでしょうか?

「夫(父)は在留10年を満たした。でも、私(妻)や子供たちはまだ在留5年だから、あと5年経たないと永住申請できない…」

この「10年ルール」には、いくつかの例外(緩和要件)があることをご存じでしょうか。
その代表的なものが、「永住者の配偶者や子」(=永住者の配偶者等)という立場の方です。

もしご主人が先に永住者になった場合、その配偶者(妻)やお子さんは、身分上「永住者の配偶者等」として扱われるため、「在留10年」のルールが免除されます。

(ここで重要なのは、申請時の在留資格(ビザ)が「永住者の配偶者等」である必要はなく、「家族滞在」ビザのままであっても、実態として(身分上)永住者の配偶者や子であれば、緩和要件の対象となる点です。)

この緩和要件(在留10年免除)が適用されると、代わりに(※それぞれ下記の)要件を満たしていれば申請が可能になります。

  • 配偶者の場合: 「実態のある婚姻が3年以上継続し、かつ直近1年以上日本に在留」など。
  • 実子の場合: 「継続して1年以上日本に在留」など。

この説明を聞くと、多くの方はこう考えます。

「なるほど、夫(父)が永住者になれば、私たちは10年待たずに申請できるのね。
じゃあ、まずは夫の永住許可(東京だと1年~1年半以上)を待つしかないんだな…」

…本当にそうでしょうか?

ここで、多くの方が知らない「専門的な仕組み」が登場します。

後から申請」すれば、夫はもう「永住者」だから、私たちが「永住者の配偶者等」として緩和要件(10年免除)を使えるのは分かった。

でも、「同時申請」の時点では、夫はまだ永住者ではない。
なぜ、本来10年必要な私(家族滞在)や子供たちまで、緩和された要件で申請が受理されるの?

これが「家族同時申請」の最大のポイントです。

入管の審査実務上、「本体者(この例では夫)が、単独で永住許可の要件を満たしている」ことが審査で確認された場合、その家族(妻や子)についても、「あたかも(申請時点から)永住者の配偶者等であったかのように」扱って(擬制して)、審査を行ってもらえます。

だからこそ、妻や子供たちが「家族滞在」ビザのまま(=在留10年未満)であっても、「永住者の配偶者等」に求められるそれぞれの緩和要件(例:妻は婚姻3年+在留1年、子は在留1年など)を満たしていれば、審査の対象となるのです。

【重要】緩和されるのは「居住要件」だけです

ここで解説した「要件緩和」とは、あくまで「原則10年」という居住要件が免除されるという意味です。
もう一つの重要な要件である「現在お持ちの在留資格が、最長の在留期間(当面は「3年」または「5年」)であること」という要件は、たとえ永住者の配偶者として申請する場合(同時申請を含む)であっても、原則として免除されませんのでご注意ください。

真のメリット:時間の大幅な短縮

この「要件緩和の仕組み」がもたらす最大の現実的メリットが、「時間の大幅な短縮」です。

永住許可申請は審査に非常に時間がかかり、特に東京入管では1年半以上かかることも珍しくありません。

パターンA:家族が「バラバラ」に申請する場合(従来の考え方)

1. まず夫(本体者)が申請。
→ 許可が出るまで【約1年~1年半】
2. 夫の許可後、次に妻や子が「永住者の配偶者等」として(緩和要件で)申請。
→ 家族の許可が出るまで、さらに【約1年~1年半】
3. 結果:家族全員(夫・妻・子)が永住者になるまで、合計【約2年〜3年】かかる。

パターンB:家族全員で「同時」に申請する場合(本記事の戦略)

1. 夫(10年要件)と妻・子(緩和要件)が同時に申請する。
2. 審査は並行して進み、許可は(本体者の許可を前提に)ほぼ同時に出る。
3. 結果:家族全員(夫・妻・子)が永住者になるまで、合計【約1年~1年半】で済む。

(結論)
「同時申請」戦略は、家族全員が永住権を手にするまでの総時間を、1年〜1年半以上も短縮できる可能性がある、非常に強力な方法なのです。

戦略の分岐点:「単独申請」と「同時申請」どちらを選ぶべきか?

「同時申請」は、「時間短縮」と「要件緩和」という強力なメリットがある一方、審査が「世帯単位」で行われるため、「家族の1人の問題で全員が不許可になる」という重大なリスクがあります。

では、具体的に「収入(生計要件)」や「家族の状況」によって、どちらの戦略を選ぶべきでしょうか?

A.「本体者単独申請」が推奨されるケース

まず本体者お一人が申請し、許可後に家族の申請を進める「単独(バラバラ)申請」が安全なケースです。

1. 家族(妻・子)の状況に少しでも不安がある場合
これが最大の分岐点です。審査は「家族運命共同体」として世帯全体で見られます。特に以下の点は、審査で遡って確認される期間の目安があります。

  • 年金・保険料の未納・遅延(直近2年間):
    家族(妻や子)に、直近2年間の公的年金(国民年金など)や健康保険料の未納・遅延期間(納付期限を守っていない場合も含む)がある。(※扶養に入っている家族の分も含む)
  • 交通違反(直近5年間):
    家族の誰かが、直近5年間に交通違反を繰り返している。(例:軽微な違反(一時停止違反など)が年数回ある、または点数が付く違反がある)
  • 資格外活動違反(在留歴全体):
    家族(妻や子)が過去に「資格外活動(週28時間超)」の違反をしたことがある。(※これは在留歴全体で素行不良として問題視される可能性があります)

上記のような不安要素が一つでもある場合、その問題が(本来は要件を満たしている)本体者の審査にまで悪影響を与え、「全員不許可」となるリスクがあります。この場合は「同時申請」を避け、まず本体者単独で申請する方が賢明です。

2. 生計要件(世帯年収)に不安がある場合
読者の方が最も知りたい点として、「単独申請の方が、収入要件は緩いのか?」というご質問をよく受けます。

明確な基準はありませんが、一般的に審査のハードルは(同時申請より)下がると考えられます。

  • 単独申請(本体者のみ): まずは「本体者(1人)+扶養家族(妻・子)」の世帯年収が審査されます。
  • 同時申請(全員): 「永住者になろうとする全員(夫・妻・子)」の世帯年収が審査されます。

「永住者」になろうとする人数が増える(例:1人→3人)のですから、世帯全体に求められる生計の安定性(年収の目安)は、同時申請の方が厳しく見られる(=求められる年収のハードルが上がる)と考えるのが自然です。

もし世帯年収が永住許可のボーダーライン上(例:扶養する家族が合計3人で、世帯年収が400万円台前半など)である場合、リスク回避のため「同時申請」は避け、まず「単独申請」で本体者の許可を確実に得る戦略が推奨されます。

B.「家族同時申請」が推奨されるケース

では、逆に「同時申請」のメリット(時間短縮)を取りに行くことが推奨されるのは、以下のすべてを満たすケースです。

  • 本体者(夫)の要件が完璧である。(10年、年収、公的義務)
  • 家族(妻・子)の要件も完璧である。(素行不良、上記(年金・交通違反)の懸念、資格外活動違反が一切ない)
  • 世帯年収に十分な余裕がある。(申請する全員が永住者となっても、安定した生活が維持できると客観的に(=年収額で)証明できる)

結論:あなたの家族に最適な戦略は?

「家族同時申請」は、「要件緩和」と「時間短縮」という強力なメリットがある一方、「要求される年収ハードルが上がる可能性」や「全員不許可」という重大なリスクを伴う、諸刃の剣です。

安易に「時間を短縮したい」という理由だけで同時申請を選択すると、本来なら(単独申請なら)許可が取れたはずの本体者まで不許可になる危険があります。

「私たちの世帯年収で、同時申請のリスクを取っても大丈夫か?」
「妻(子)の過去の状況(アルバイト等)は、審査に影響しないか?」
「安全に『単独申請』で進めるべきか?」

この判断は、ご家族の状況(年収、扶養人数、過去の履歴)を詳細に診断する必要がある、最も専門的な判断です。
申請戦略で迷われたら、安易に自己判断せず、まずは当事務所にご相談ください。

「永住許可」の申請でお悩みですか?

永住許可申請は、お客様の人生を左右する重要な手続きです。

特に、年収要件、公的義務(年金・納税)、扶養家族(海外送金)などの審査は非常に厳格で、専門的な知識が求められます。

当事務所では、お客様の状況に合わせて、3つの異なる料金プランをご用意しております。

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