実際の事例紹介

特定活動から技人国への在留資格変更許可申請(NC旋盤オペレーターのケース)

技人国の更新が不許可になり、帰国準備の特定活動から技人国への変更許可申請を試みた例

申請内容:在留資格変更許可申請
在留資格:「特定活動」から「技術・人文知識・国際業務」
国籍:ベトナム人
結果:許可(1年)

申請人は某行政書士法人に依頼して「技術・人文知識・国際業務」の在留期間更新許可申請を行いましたが、約2か月後に不許可の通知を受け取りました。 不許可の理由は「雇用先において、安定的・継続的に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当する活動を行うものとは認められません。」というものです。

再申請をするため、申請人が弊所に相談してきました。 申請人及び受け入れ企業からヒアリングを行ったところ、申請人の業務はNC旋盤のオペレーションとのことです。 不許可理由から、入管は、NC旋盤のオペレーションという業務が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しないと判断したものと思われます。

在留資格「技術・人文知識・国際業務」の在留資格該当性とは、出入国管理及び難民認定法別表第一の二によれば次のとおりです。 「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動」 ここでは、大学(短大含む)もしくは日本の専門学校で学んだ学問的知識や技術を必要とするレベルの業務であることが求められています。繰り返しによって身につく単純作業や肉体労働は含まれません。

では、NC旋盤のオペレーションはどうなのでしょうか?

これについては、平成26年(行ウ)第128号 退去強制令書発付処分等取消請求事件という判例が参考になります。

「技術」(注:現在の「技術・人文知識・国際業務」)の在留資格で在留していたベトナム人が、旋盤機械を用いた金属素材の切削作業に従事していたところ、入管の摘発を受け、入管法24条4号イ(資格外活動違反)に該当する旨の認定をされたことに端を発する事件です。

今回の事例に関係するところだけをまとめてみます。

入管側の主張: 原告(資格外活動違反とされたベトナム人)が従事していた仕事は、プログラミングといった専門的な技術・知識を必要とする作業ではなく、金属の素材をNC旋盤機械内に固定してスタートさせ、その後に出来上がった製品を見本と見比べるという、自然科学の分野に属する技術・知識を必要としない作業である。だから原告は「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務に従事する活動」を行っていなかった。

裁判所の判断: 原告が従事していた作業は、①NC旋盤機械の中に金属素材を固定してドアを閉めて旋盤機械を作動させ、作動後に出来上がった製品を検査するというもので、各作業自体が単純作業であることは否定できないこと、②会社の代表取締役及び専務取締役なども単純作業であると評価していること、③原告の陳述書にも、指導を受けながらであれば初心者であっても1週間でできるかもしれないことを前提とする記載がされていることなどによれば、原告が従事していた作業は、少なくとも大学等で理科系の科目を専攻して又は長年の実務経験を通して習得した一定水準以上の専門技術・知識を有していなければ行うことができない業務ということはできない。また、NC旋盤機械のプログラミング作業やその修理は、「技術」の在留資格に対応する活動ということができるが、原告がこれらの作業を行うことはなく、その予定もされていなかったのであるから、原告が行っていた作業が、「技術」の在留資格に該当するものということはできない。

このように、裁判所は入管の主張を支持しています。

問題は、NC旋盤機械を用いた金属素材の切削作業が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しないと裁判所が判断したことです。今回相談を受けた事例も申請人の業務はNC旋盤のオペレーションとされており、業務内容はほぼ同じだと思われます。

また、申請人の働く会社が技能実習生を受け入れていることも、申請人が技能実習生と同様の単純作業に従事するのではないかという入管側の疑いを深めている可能性があります。

前回不許可になった際の申請書類を見せてもらいました。「理由書」の中に申請人の業務内容が記述されています。 それを読むと、現在NC旋盤オペレーターとして教育を受けている旨の記載があり、その内容がいくつか列挙されています。その最終段階ではプログラム作成ができるようになることとあります。上記の判決内容にもあるとおり、「NC旋盤機械のプログラミング作業やその修理は、「技術」の在留資格に対応する活動ということができる」と裁判所ははっきり述べていますので、この段階まで来れば、間違いなく「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当すると言うことができます。 しかし、問題は現時点の作業自体は単純作業とみなされるものであることです。 このまま再申請したのでは再び不許可になる可能性が極めて高いと言わざるを得ません。

これを打開するためには、別の角度から考える必要があります。 それは、在留資格該当性の有無を判断する際には、現在の業務が単純労働かどうかだけでなく、長期的に見てそれがどのくらいの割合なのかも重要になってくるということです。

どういうことでしょうか?

平成20年3月に出入国在留管理庁が「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について」という文書を出しており、別紙1として「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について」があります。

そこには次のような記述があります。 「企業においては、採用当初等に一定の実務研修期間が設けられていることがあるところ、当該実務研修期間に行う活動のみを捉えれば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない活動(例えば、飲食店での接客や小売店の店頭における販売業務、工場のライン業務等)であっても、それが日本人の大卒社員等に対しても同様に行われる実務研修の一環であって、在留期間中の活動を全体として捉えて、在留期間の大半を占めるようなものではないようなときは、その相当性を判断した上で当該活動を「技術・人文知識・国際業務」の在留資格内で認めています。」

つまり、入社当初に行われる実務研修が、単純労働を含むものであったとしても、それが他の日本人従業員に対しても同様に行われるものであり、在留期間の多くを占めるものでなければ、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を認めるということです。(ここでいう「在留期間中」とは、一回の許可毎に決定される「在留期間」を意味するものではなく、雇用契約書や研修計画に係る企業側の説明資料等の記載から、申請人が今後本邦で活動することが想定される「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって在留する期間全体を意味します)。

会社担当者からのヒアリングを再度行ったところ、申請人はまさにこの実務研修期間中であり、将来は確実にプログラミング等の業務を担当することになるということがはっきりしたため、研修計画書、キャリアプラン等を作成したうえで再申請することにしました。

ここで注意が必要です。申請書類には将来プログラミングを担当すると書いておいて、実際にはいつまでも単純作業をさせるようなことは絶対にしてはなりません。
そのような虚偽申請をして在留資格変更許可を受けた外国人を就労させた場合、外国人自身は資格外活動罪となり、会社・事業主・採用担当者等は不法就労助長罪に問われます。不法就労助長罪の法定刑は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金またはこれらの併科となっています(入管法73条の2第1項1号)。

本件の場合、そのようなことはないという確証が得られたため、弊所で申請取次をいたしました。

実際に提出した書類は次のとおりです。

  • ・在留資格変更許可申請書
  • <会社関係の書類>
  • ・履歴事項全部証明書
  • ・会社案内(HPをプリントしたもの)
  • ・決算報告書
  • ・給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
  • ・雇用契約書
  • ・採用理由書
  • ・研修計画書
  • ・職務内容説明書(技能実習生と申請人の担当業務の違いを含む)
  • ・工場のレイアウト図
  • ・会社、工場内外の写真
  • <申請人に関する書類>
  • ・課税証明書
  • ・納税証明書
  • ・大学の卒業証書写し及び日本語訳
  • ・履歴書
  • ・大学の成績証明書及び日本語訳
  • ・日本語能力試験合格証

「採用理由書」の中では、次のようなことを訴えました。

  • ・申請人が教育段階で研修中であること
  • ・幹部候補生であり業務全般を知る必要があること
  • ・1年以内にはCAD図面に基づいてNC旋盤のプログラムを作成することが主要業務となる予定であること
  • ・将来的には受発注業務、経理業務などにも携わること

「研修計画書」では、1年以内にプログラミングを始め、次第にその割合が高くなることを説明しました。
「職務内容説明書」では、研修期間後も含め、申請人がどのような業務を担当するのかを技能実習生との違いと併せて説明しました。

申請から約2か月後に無事許可との連絡が入りました。

途中、申請日から1カ月半後くらいに入管から電話があり、次のような質問をされたそうです。

Q.プログラミングはできるのか?
A.できるが、今は教わっている。
Q.だれから教わっているのか?
A.工場長
Q.教わった期間は?
A.約2カ月
Q.他に外国人労働者はだれがいるか?
A.ベトナム人技能実習生が5人いる。
Q.技能実習生の仕事は何か?
A.手動旋盤を使っている。
Q.あなたの仕事はなにか?
A.自動旋盤でプログラミングを含む仕事をしている。

これらの質問内容からも、入管が作業内容について疑っていたことがわかります。提出した書類に書かれた内容と質問への答えが食い違っていたら許可にはならなかったかもしれません。

この事例からわかることまとめ

  • ・NC旋盤の操作という作業には「技術・人文知識・国際業務」の在留資格該当性がない
  • ・当初従事する業務が単純労働であっても、それが日本人従業員と同様に行われる研修の一環であり、将来は専門的業務を行うのなら、丁寧に説明すれば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の中で認められる可能性がある
  • ・虚偽申請は絶対に行ってはならない

事例2:「留学」から「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更許可申請(専門性のはっきりしない専門学校卒業生のケース)

学んだ内容がビジネス一般の専門学校生の例

申請内容:在留資格変更許可申請
在留資格:「留学」から「技術・人文知識・国際業務」
国籍:ベトナム人
結果:許可(1年)

申請人は日本の専門学校の卒業を控えたベトナム人留学生です。

最初に話を聞いたとき、これは難しい案件だと感じました。専門学校の卒業生は「留学」から「技人国」への在留資格変更が可能なのですが、このケースの場合、専攻学科がビジネス一般的なもので、どんな専門性があるのかよくわからなかったからです。

また、受け入れ企業は申請人が留学生としてアルバイトをしていた先であり、そのアルバイトと言うのが飲食店だったので、単純労働を疑われる可能性もありました。

会社の社長から話を聞いたところ、申請人に担当してもらう業務は、マーケティングと会計、一般事務とのことでした。一般事務と言ってもデータ入力作業などは単純労働とみなされますが、書類作成、請求書作成等なので、業務に関しては、技人国の在留資格該当性ありと判断しました。

すると、問題となるのは申請人が専門学校で学んだ内容と業務との関連性です。
大学(短大を含む)卒の場合は、専攻と業務との関連性は緩やかに判断されるため、直接の結びつきがなくても認められる場合が多いです。しかし、本件では申請人は専門学校卒のため、学校で学んだ内容と業務との間にある程度密接な関連が求められます。

関連性があるかどうかを見るために、まず専門学校の成績証明書を取り寄せてもらいました。成績証明書には申請人が学んだ具体的な科目が記載されています。例えば、「ビジネス英語」「ビジネスマナー」「国際関係論」「マーケティング」「人間関係論」「キャリアデザイン」「経営戦略論」などといったものです。しかし、やはりまだ具体性に乏しいため、いくつかの科目について教科書を見せてもらいました。

その結果、将来の担当業務であるマーケティングと会計について直接関係する科目をいくつか学んでいることがわかりました。そして、申請理由書の中でそのことを詳しく説明しました。
申請理由書にはまた、申請人が受け入れ企業の飲食店でアルバイトをしていたことを隠さずに記し、正社員として採用後には接客・販売等の業務を申請人に行わせないことを記載しました。

実際に提出した書類は次のとおりです。

4月初めに出入国在留管理庁に申請書を提出し、3週間ほどで許可の連絡が届きました。

初めにも述べたとおり、専門学校での学習内容があまりにも一般的なもので専門性に乏しかったため、許可になるかどうか微妙な案件でした。それでも資料の追加提出要求もなく1カ月もかからずに許可になったのは、教科書を取り寄せて担当予定業務との関連性を探ったことが功を奏したのではないかと思われます。

ただし、不許可になった場合は不許可理由を教えてもらうことができますが、許可になった場合に何が許可の決め手となったのかは入管は教えてくれません。ですので、あくまでも私の想像です。

この申請人はその後2度在留資格更新許可申請をして、最初の更新では1年、2度目の更新では3年の在留期間を認められました。

この事例からわかることまとめ